そわそわするのは終電のある日。たとえ何をしていたとしても終電になると帰ってしまうような危機感に襲われ、また、俺のほうも終電になると荷物をたたんだり、靴をそろえてやったりするので、シズちゃんはちらと時計をみて、そんな時間か、とつぶやいて帰ってしまう。それが日常だ。どうせなら終電がおわったあとに会いたいと思う。それなら何の心配もない。朝日が昇るまでは長いのに、終電までは短い。終電だといって帰ったあとの空白の時間はあまりに長すぎるのだ。

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 酒を何本あけたかのころにぼやきはじめた臨也が、何本目かのビールに手を伸ばしそうになった手をつかんで「それくらいにしとけよ。」と制止する。ここは臨也の家である。静雄は「いい酒があるんだけど飲みにおいでよ」と誘われて一時間ほど前にここを訪れた。臨也はこっちをぎ、とにらみつけて、叫んだ。

「はなせよ。ほんと空気よめないやつ。」
臨也はそれだけいって机につっぷした。ごろごろ、と頭をすりつけてまた言葉を発し始める。
「ていうかシズちゃんなんで飲んでないの。」
「飲んでる。」
「嘘、素面じゃん。くっそ、まじ空気よめ。」
 
 そんなふざけたことを言いながら臨也は時計をちら、と見た。俺はそれをみて、あ、終電か、とふと思った。それで皿をまとめはじめようとすると袖のあたりが重い。臨也が袖をちょこんとつまんでいるのだ。
「邪魔だろ、片づける。」
「片づけなくていいから。」
泊まっていって。
その声が、久しぶりに心細そうに響いたのを、俺はああ、と感動がこもりながらきいたのを覚えている。