家に入ると一番初めからキスだった。「何やってんの。」俺が何か言おうとすると今度は胸におしつけられて呼吸ができない。結局一言もしゃべらせてもらえないまま、あいつの表情を見ると何か、俺のことそんな風にも見るんだ、というあっつい形相で見つめてたので、俺は何も言わず、その大きな巨体をひきずって部屋に入り、ソファに座らせるとよしよし、と頭をなでてやった。あいつのそんなところを見るのは初めてだったので、なんだか新鮮で楽しくなって、「ねぇ、何かつくろうか。」と言いましたが返事がない。「今なら俺のエプロン姿が…」ここまで言いかけて視界が反転。あの、不快な視線を、俺は直視しなければならなくなった。
「調子のんなよシズちゃん。俺がちょっとやさしいからって。」
「もう黙れよ。」
黙れ、と再びいった。
俺は沈黙した。そして同情する。こんなになるまで俺がほしいのか。
「言葉が、邪魔なときってあるよねぇ。そんなに俺、最近いなかった?」
ごめんね、さびしかったの、と言った。その素直な言葉に驚いて、口を閉じる。そうか、こいつがこんなに素直だからうつったのかもしれない。
今日はしゃべらないほうがいい。余計なことをいう。目の前の男もそんな感情をいだいているのだろう。お互い、素直になると言葉を失って沈黙すると、キスが降り注いだ。皮のはがしあいがはじまる合図。