新羅は、朝方突然訪れた臨也を待ってたよ、と笑顔でリビングに通した。臨也は、カレンダーを見つめて、夏がまたおわったよ、とつぶやいた。
「そうだね。お疲れ様。」
臨也は軽く笑って、本当つかれた、とソファになだれこむように横になってしまう。
「ねぇ、新羅、俺もうばれたかと思ったんだけど、シズちゃんってば馬鹿なんだ。昨日、俺がせっかく触れてもいいって言ったのにね。」
指一本、デコピンだけとか…。臨也は顔を上げない。新羅は臨也の横になっている前の机に冷たい水を置いて、エアコンをつけた。
「ねぇ、新羅、俺って馬鹿なのかな。」
「そんなことないよ。」
「違う、臆病なんだ。」
「…。」
「昨日、全部言おうと思ってたのに言えなかった。」
臨也の頭に新羅は手を載せて、軽く撫でると、臨也は何もしゃべらなくなる。
どうせ眠っていないんだろうとは思ってたけど、と新羅は苦笑する。
臨也はこうやって、毎年、夏の深夜、静雄の家にしのびこみ続けているのだ。
新羅は静雄にすべてをいわなかったことを少し後悔しながら、でも、この距離を君も幸せだと思うところがあるのではないのか、と心でつぶやいた。答えがないのはわかっているが、それでも、幸せを願う。
できるならば、二人が何のごまかしもなく暮らせればと、祈る。