ブラインドをからからと上げてみると、春のような心地よい光が差し込んできて、思わず目を細める。2月の冬の風をもう感じることはないのだろうか、とふと思うが、それはそれで寂しいようなきがした。春が来たのかもしれない。
臨也はとなりの部屋で寝そべっている男に呼びかけた。
「ねぇ!出かけようシズちゃん、外はいい感じの小春日和だよ。」
返事がない。自分の言葉にあの化け物が素直にこたえるとは流石に思っていなかったが、こうも見事にスルーされるとかなしくもなったりするものだ。
静雄寝がえりを打った。こちらから見えないようにしているのだろうがあの図体ではいずれにせよ目に入ってしまう。臨也は肩をすくめた。ずっとこんな感じだ。


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それはなんの前触れもなく訪れた。
数日前の晩、北風がびゅーびゅーふいてる中、はて、と首をかしげながらそいつはたっていた。どうしているの?俺に何か不満があって?
「不満ならいつでもあるだろ」
知ってました。静雄にいくらわけを聞いても知らないうちにここにきていたの一点張りで要領を得ない。だから本当に鬱陶しく感じられてじゃあ帰ればいいじゃない、ていうか帰ってください早急に、と言い放って踵を返した。
それで終わるはずだったのだ。
だが、そいつは俺の後ろから無言でついてきてあんまりこわいのでちらっと後ろを振り返ると早く歩けと言って背中をひとけりされる始末。犯罪じゃないのこれ。


つまり、それ以来、臨也の部屋の多くを陣取る形で住み着いている。


臨也は静雄の寝そべるソファのとなりに腰をおろした。今日の彼は言うとおりにすればただの人間のようだ。
「で、どうして君はここにいるのかな。俺の部屋がそんなに気に入ったの?それとも俺の生活をことごとく邪魔してやりたいという君なりの悪意なのかな?だとしたら大成功だよ、正直言ってかなり迷惑だから。」
静雄は心ここにあらずといったふうに超発にさえのらずにいたので、臨也のほうが逆にいらだたしくて言葉を続ける。
「何その顔、自分でもわからなくてここに来ちゃったの?ほんとにシズちゃんって本能に忠実に生きててうらやましいよ。」
「もしかして俺がいなくてさびしくなったのかな、ホームシックだったのかな?シズちゃんは。だからここまできちゃった?言っとくけどかわいくないからそれ、シズちゃんがやるようなことじゃないからね。」
えっ。どうして反論しないんだこいつ。
しかも最後のほうでは俺の台詞を復唱などしているようだった。ホームシックなのかこいつ!!!馬鹿じゃないの!!!
臨也はなぜだかわからないのにちょっと目を合わしているのが恥ずかしいような気がして席を立とうとした。だがそれは静雄の手によってはばまれる。がっしりとした手が臨也の腕をつかみ、行くな、と言われているように。
「痛いんだけど、警察呼ぶよ本気で。」
「警察なんか呼べねえように見張っててやるよ。」
「もうほんっと犯罪者だよねシズちゃん!!!横暴、死ねばいいのに。」
静雄はまっすぐ臨也のほうを見つめていた。この生き物寂しくなったりするような脳の機能も存在していたのか。静雄の手が祈るように臨也の腕を握っていた。切実な祈りのようだった。
臨也はなんだかそこから離れてはならないような気がして、わかったよ、というように少し笑った。お昼はどうしようか、食べたいものはないの、と問いかける。
静雄の答えを待つ。



いい、小春日和の中で、世界中がまどろんでいるような気がした。