秋のよく冷えた朝に、チャイムがなった。

「六条です。」
玄関でへへ、とやけに嬉しそうな笑顔を浮かべている男が、怪訝な顔をした青葉によってしめだされるのに数秒もかからなかった。やっといれてもらえるころには千景はくしゅんとくしゃみをして『寒い』といってソファに寝転んでしまった。風邪をひかせてしまったかと思い、あたたかいお茶をいれてやるとへにゃ、と弱弱しく笑った。
「で、なんでこんな早くにきたんだから何か用事があったんじゃないのか。」
「何もないよ、顔をみにきた。」
「もっかいしめだしてもいいんだな。」
「やめて、死ぬから。」
ずず、とお茶をすする音だけがとりのこされて、部屋は沈黙する。
その沈黙はもう不快なものでさえない。青葉は自分の分のお茶をずず、とすすった。

沈黙をやぶったのは千景のほうだった。ことん、とお茶を机の上において
「青葉は、俺がいつまでいなくても平気だと思う。」
青葉はす、と視線をあげて、千景のほうをみた。意図がわからないというように首をかしげて、
「別にいなくたっていいだろいないのが普通なんだ。むしろいつまでもいないほうが毎日平和。」
とつぶやいた。そしてもう一度茶をすすった。千景はうん、と相槌をうった。そしてちょっと笑って、まぁそうだよな、と言った。
「どこかいくからそんなことを?」
「まぁ、ちょっとだけしばらく。」
「どっちだよ。」
青葉は静かにいうと、茶碗を二人分さげて、あらいはじめる。洗いながら、帰らないのか、とつぶやく。もう何もでないぞ、と。
『死ねばいいのに。』
いらいらが本当に本当に本当は。
青葉はいらっと茶碗をたなに戻しながら、立ち上がる音をきいて、床をどんとけりつける。かるくどんと音がなった。
それをしらない千景は立ち上がって、玄関に向かうと、きゅ、とじゃ口を占める音が響く。靴をはきかけている手前少しかがんでいる胸倉を掴まれてキスをされる。
「さびしいなんて思わせたら許さない。」
そして乱暴につきはなすと、千景の腹のあたりをけりつけてリビングへ帰って行った。